「地ビール」が1994年に生まれた理由|最低製造数量基準が2,000kLから60kLへ
日本の小さな醸造所は、1994年(平成6年)を境に急に増えました。きっかけは味の流行ではなく、ビールの製造免許に必要な「年間の最低製造数量」が33分の1に下げられたことです。
この記事では、国税庁「酒のしおり」の統計と、その注記を原文で確認し、数字がどう動いたかを追います。
この記事の結論
- ★平成6年の酒税法改正で、ビールの最低製造数量基準が2,000kLから60kLに下がりました
- ★免許場は平成6年度の6場から、平成9年度には209場へ(3年で約35倍)
- その後は減り続け、平成25年度に179場まで落ちています
- ★平成30年度に184場から395場へ跳ねていますが、これは新規開業ではありません
- 令和5年度は428場・389者。製造場の数と会社の数は一致しません
免許には「これだけ造れること」という条件がある
酒類を造るには製造免許が要ります。その条件のひとつが最低製造数量基準で、品目ごとに「年間これだけ造れること」が決まっています。
ビールについては、平成6年に大きく下げられました。国税庁の統計の注記に、そのことが書かれています。原文のまま引用します。
※ 酒税法の一部改正(平成6年法律第24号)により、ビールの製造免許に係る最低製造数量基準が2,000kℓから60kℓに引き下げられた。
国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」付表1 地ビール製造免許場(者)数の推移 注記(2026年8月15日確認)
2,000kLから60kLへ。元の3%、およそ33分の1です(原典の数値から編集部が計算しました)。
2,000kLは大瓶(633mL)に直すとおよそ316万本、60kLならおよそ9万5千本にあたります(編集部が計算した目安です)。この差が、小さな醸造所が免許を取れるかどうかの分かれ目になりました。
★3年で6場から209場へ
実際の免許場数の推移です。国税庁が公表している数字をそのまま並べます。
| 年度 | 製造場数 | 製造者数 | できごと |
|---|---|---|---|
| 平成6年度 | 6 | 6 | 基準が60kLに下がった年 |
| 平成7年度 | 24 | 24 | |
| 平成8年度 | 103 | 95 | |
| 平成9年度 | 209 | 194 | 3年で約35倍 |
| 平成11年度 | 264 | 242 | この時期がひとつの山 |
| 平成17年度 | 234 | 223 | |
| 平成25年度 | 179 | 173 | 掲載期間中で最も少ない |
| 平成29年度 | 184 | 176 | |
| 平成30年度 | 395 | 368 | ★後述(新規開業ではない) |
| 令和5年度 | 428 | 389 | 最新 |
原典の注記には、この表が何を数えたものかが書かれています。
平成6年4月1日以降ビールの製造免許を取得した製造場(者)で、大手ビールメーカー(5社)及び試験製造免許に係る製造場(者)を除いたものを掲げた。
同 注2(2026年8月15日確認)
大手5社は除かれています。つまりこの数字は、規制緩和のあとに参入した側だけを追ったものです。
★平成30年の急増は、新規開業ではありません
表を見ると、平成29年度の184場から平成30年度の395場へ、1年で211場も増えています。倍以上です。
これを「クラフトビールブームで一気に開業した」と読むのは誤りです。原典に理由が明記されています。
平成29年度税制改正によりビールの定義が拡大され、平成30年3月31日現在で発泡酒の製造免許を有していた者に対し、ビールの製造免許が付与された。
同 注3(2026年8月15日確認)
もともと発泡酒の免許で造っていた醸造所が、定義の拡大によってビールの免許を持つことになった、という数字の動きです。醸造所が新しく建ったわけではありません。
ビールの定義が拡大されたこと自体は、当サイトの別記事で扱っています。使える副原料が増えたのがこの改正です。
→ 「クラフトビール」は法律の区分ではない|ビールと発泡酒の分かれ目は麦芽50%
「製造場」と「製造者」は別に数えられている
表には2つの数字があります。令和5年度は428場に対して389者でした。
1つの会社が複数の製造場を持つ場合があるため、この2つは一致しません。日本酒の統計でも同じ考え方が使われています。
→ 数字で見る日本酒の産業|蔵は50年で半分以下、輸出は10年で3倍
小さな醸造所には税の軽減もあります
免許の基準とは別に、規模の小さい製造者には酒税の軽減措置があります。酒税率一覧表に、租税特別措置法にもとづく制度が載っています。
事業計画等について承認を受けた者(承認酒類製造者)が、次の⑴から⑼までのいずれにも該当しない、かつ、前年度の総課税移出数量が 3,000kl 以下である場合には、当年度酒税累計額に応じて1又は2の表により算出した酒税額を次表の割合で軽減した酒税額とする。
国税庁「酒税率一覧表(令和5年10月1日~令和8年9月30日)」3.租税特別措置法第87条関係(2026年8月15日確認)
前年度の総課税移出数量が3,000kL以下であることなどが条件です。軽減の割合は数量と酒税額に応じて決まり、原典では最大20%と記載されています。
なおビール系飲料の税率そのものは、2026年10月1日に変わります。
→ 2026年10月1日、ビールの酒税が一本化されます|ビールは下がり、新ジャンルは上がる
数字を見るときの注意
読み違えやすいところ
- ★平成30年度の急増は制度変更によるものです。開業ラッシュではありません
- この統計は大手5社を除いた数字です。日本のビール製造場の総数ではありません
- 製造場数と製造者数は別のものです。会社の数を知りたい場合は製造者数を見てください
- 「地ビール」も「クラフトビール」も法律の区分ではありません。この統計の表題に使われているだけです
※2026年8月15日時点で確認した内容です。統計は毎年更新され、税制も改正されることがあります。最新の内容は国税庁のページでご確認ください。本記事は公表統計と法令の記述を読んだもので、個別の醸造所や商品の評価ではありません。
よくある質問
地ビールはいつから造れるようになったのですか?
いま日本にクラフトビールの醸造所はいくつありますか?
平成30年に急に倍増したのはなぜですか?
いまビール造りを始めるには年間何kL必要ですか?
小さい醸造所は酒税が安いのですか?
出典
- 国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」付表1・付表2・付表3 酒類製造免許場数の推移(地ビール、果実酒、濁酒)(PDF)(地ビール製造免許場(者)数の推移と、最低製造数量基準・定義拡大の注記。2026年8月15日確認)
- 国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」5 酒税率一覧表(令和5年10月1日~令和8年9月30日)(PDF)(租税特別措置法第87条関係の軽減措置。2026年8月15日確認)
- 国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」目次(2026年8月15日確認)
本記事は編集部が上記の情報源を確認して作成しました。引用は原典の原文のままです。表は原典の数値をそのまま転記したもので、紙幅の都合で節目の年度だけを抜き出しています(原典には平成6年度から令和5年度までの全30年度分が掲載されています)。「およそ33分の1」「約35倍」および大瓶換算の本数は、原典の数値から編集部が計算した目安です。この統計は平成6年4月1日以降に免許を取得した製造場(者)を対象とし、大手ビールメーカー5社と試験製造免許は除かれています。現行の免許要件については国税庁のページでご確認ください。本記事は公表統計を読んだもので、個別の醸造所や商品の評価ではありません。