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ひやおろしの「生詰め」とは|国の表示基準に「生詰」という言葉はない

ひやおろしの説明を読むと、たいてい「生詰め」という言葉が出てきます。火入れを1回だけにして、瓶詰めのときには火入れをしない――そう説明されます。

ところが国税庁の告示(清酒の製法品質表示基準)の全文を検索しても、「生詰」という言葉は一度も出てきません。「生酒」と「生貯蔵酒」は名指しで定義されているのに、その間にある「生詰酒」だけがありません。

この記事では、告示が定めている言葉と、定めていない言葉を原文で仕分けし、実際の商品名でそれぞれが何件あるかを数えます。

この記事の結論

  • 告示の任意記載事項は10項目。そこに「生詰」はありません。「原酒」「生酒」「生貯蔵酒」「生一本」「樽酒」はあります
  • 告示の全文に「生詰」「無濾過」「ひやおろし」「秋あがり」「火入」「熟成」「新酒」はいずれも0回でした
  • 「生詰酒」の説明は、東京国税局の用語集にあります。告示ではなく、用語の解説として書かれているものです
  • ひやおろし351件のうち、商品名に「生詰」とあるのは14件(4.0%)だけでした。「ひやおろし=生詰め」と説明されるわりに、商品名には書かれていません
  • 告示にある「原酒」は52件(14.8%)で、いちばん多く書かれていました。告示にない「無濾過」は21件(6.0%)です
  • 「生酒」と書かれた商品は1件だけで、それも飲み比べセットでした。生酒は火入れを一度もしない清酒で、生詰めとは別のものです
  • これは商品名を数えたものであって、瓶のラベルや中身を確認したものではありません

告示が「書ける」と定めている10項目

清酒のラベルに何を書くかは、国税庁の告示が定めています。条件を満たせば書けるもの(任意記載事項)は、第5項に10項目あります。

告示 第5項(任意記載事項)条件
(1) 原料米の品種名使用割合が50%を超える場合。割合を併記する
(2) 清酒の産地名全部がその産地で醸造された場合
(3) 貯蔵年数1年未満は切り捨て
(4) 原酒製成後、加水調整をしない清酒
(5) 生酒製成後、一切加熱処理をしない清酒
(6) 生貯蔵酒加熱処理をしないで貯蔵し、製造場から移出する際に加熱処理した清酒
(7) 生一本単一の製造場のみで醸造した純米酒
(8) 樽酒木製の樽で貯蔵し、木香のついた清酒
(9) 「極上」「優良」「高級」等特に良好で、その旨を客観的事項で説明できる場合
(10) 受賞の記述公的機関から付与された賞。授賞機関と受賞年を併記
清酒の製法品質表示基準 第5項(平成元年国税庁告示第8号)を編集部が要約した表。条件は原文を短くしたもので、原文どおりではない ※スマートフォンでは横にスクロールできます

「生」の付く言葉が2つあります。原文はこうです。

(5) 生酒
生酒の用語は、製成後、一切加熱処理をしない清酒である場合に表示できるものとする。
(6) 生貯蔵酒
生貯蔵酒の用語は、製成後、加熱処理をしないで貯蔵し、製造場から移出する際に加熱処理した清酒である場合に表示できるものとする。 国税庁「清酒の製法品質表示基準」第5項(平成元年国税庁告示第8号。2026年8月29日確認・原文ママ)

整理すると、こうなります。

  • 生酒=火入れ 0回
  • 生貯蔵酒=貯蔵前は火入れせず、出荷時に1回

ひやおろしは「貯蔵前に1回、出荷時にはしない」と説明されます。これは(5)にも(6)にも当てはまりません。

★告示に「生詰」は一度も出てこない

告示の全文(清酒の製法品質表示基準の本文)を検索しました。

告示の本文
原酒あり(第5項(4))
生酒あり(第5項(5))
生貯蔵酒あり(第5項(6))
生一本あり(第5項(7))
樽酒あり(第5項(8))
生詰0
無濾過 / 無ろ過0
ひやおろし / 冷卸0
秋あがり0
火入0
熟成0
新酒0
しぼりたて0
清酒の製法品質表示基準の本文を編集部が検索して数えた(2026年8月29日確認)※スマートフォンでは横にスクロールできます

「火入」という言葉自体が告示に出てきません。生酒と生貯蔵酒の条件は「加熱処理」という言葉で書かれています。

だからといって「生詰」と書いてはいけない、ということではありません。告示が書いてはいけないと定めているのは、「最高」「第一」「代表」などの最上級の用語、官公庁御用達に類する用語、特定名称に類似する用語の3つだけです(第6項)。定めがないので、条件も付いていません。

※告示は改正されることがあります。上記は2026年8月29日に国税庁のサイトで確認した内容です。また、清酒の表示に関わる決まりはこの告示だけとは限りません。今回確認したのはこの告示の本文であり、酒類の表示に関するすべての規定を網羅的に調べたものではありません。

では「生詰酒」はどこに書かれているのか

東京国税局が公開している用語集に、説明がありました。

火入れを一度も行わずに貯蔵・びん詰め・出荷される清酒が「生酒」です。通常、生酒は低温貯蔵や特殊なろ過を行う事で品質の変化を防いでいます。過熱を行わないためにフレッシュな味わいを楽しむ事ができます。また、貯蔵前のみ火入れをし、びん詰めの際に火入れをしない清酒は、生のままびん詰めするので、「生詰酒」とも呼ばれます。反対に、貯蔵前に火入れせず、びん詰めの時だけ火入れした清酒は、生のまま貯蔵されているので「生貯蔵酒」と呼ばれます。 東京国税局「日本酒の用語集」【生酒・生詰酒・生貯蔵酒】(資料提供:独立行政法人 酒類総合研究所。2026年8月29日確認・原文ママ)

読みどころは2つあります。

  • 「とも呼ばれます」という書き方です。告示の「表示できるものとする」とは書きぶりが違います。呼び名の説明であって、表示のルールではありません
  • この用語集にも「ひやおろし」「秋あがり」は出てきません(本文を検索して0回)

つまり、火入れの回数による3つの呼び名のうち、告示に定義があるのは「生酒」と「生貯蔵酒」の2つで、「生詰酒」は解説の中にだけあるということになります。

呼び名貯蔵の前びん詰めのとき定めている文書
生酒火入れなし火入れなし告示 第5項(5)
生貯蔵酒火入れなし火入れあり告示 第5項(6)
生詰酒火入れあり火入れなし告示になし(東京国税局の用語集に説明)
火入れの回数と呼び名の対応(告示と東京国税局の用語集にもとづき編集部が整理・2026年8月29日確認)。告示にその形の表が載っているわけではない ※スマートフォンでは横にスクロールできます

★ひやおろしの商品名に「生詰」は4.0%しかない

では売り場ではどうか。楽天市場のひやおろし351件の商品名を数えました。取得の条件は次のとおりです。

項目内容
取得日2026年8月29日(JST)
取得先楽天市場(楽天商品検索API)
母集団B(ひやおろし)検索語は「ひやおろし」のみ。373件を取得し、日本酒ジャンル外5件・商品名に「ひやおろし」がない12件・ふるさと納税5件を除いて351件。該当件数は993件
母集団A(日本酒全体)検索語を使わず、日本酒ジャンルの指定だけで420件を取得し、ふるさと納税149件を除いて271件。該当件数は115,803件
数えたもの商品名に含まれる文字列
編集部が実施した取得の条件(2026年8月29日)※スマートフォンでは横にスクロールできます
商品名に含まれる語ひやおろし
351件
日本酒全体
271件
告示
原酒52件(14.8%)27件(10.0%)あり
無濾過21件(6.0%)7件(2.6%)なし
生詰14件(4.0%)2件(0.7%)なし
生貯蔵10件(2.8%)18件(6.6%)あり
生酒1件(0.3%)12件(4.4%)あり
生一本00あり
樽酒00あり
熟成19件(5.4%)0なし
火入3件(0.9%)5件(1.8%)なし
秋あがり / 秋上がり32件(9.1%)2件(0.7%)なし
しぼりたて017件(6.3%)なし
商品名に含まれる語の件数と割合(編集部が数え、計算したもの・2026年8月29日取得)。「告示」欄は清酒の製法品質表示基準の本文に語があるかどうか ※スマートフォンでは横にスクロールできます

「生詰」は14件、4.0%でした。ひやおろしの説明として広く使われている言葉のわりに、商品名には書かれていません。

実例:「生詰」と書かれた1本を開いてみた

14件のうち1件、商品ページを開いて確認しました。栃木・井上清吉商店の「澤姫(さわひめ)」のひやおろしです。

  • 詳細欄に「火入 一回火入れ」と書かれています。あわせて備考が「ひやおろし、生詰」となっており、東京国税局の用語集の説明(貯蔵前のみ火入れ)と整合する書き方です
  • 「保管方法 要冷蔵」と書かれています
  • 商品仕様の「特定名称」欄は「純米吟醸酒」。精米歩合50%・原料米は栃木県産ひとごこち100%・アルコール15〜16%
  • 税込4,400円、送料880円。送料無料ラインの対象外(16,500円以上で無料)なので、1本だけ買うと合計5,280円になります
  • 2026年8月30日の時点では予約商品でした。予約期間は2026年8月29日〜9月8日、発売日は9月9日と書かれていました。2026年9月11日に開き直すと予約の表示はなくなり、「3~5営業日以内に出荷予定」に変わっていました

※2026年8月30日に商品ページを開いて確認した内容です。予約の表示と価格・送料は2026年9月11日に確認し直しました。火入れの回数は商品ページの記載であって、当サイトが製造工程を確認したものではありません。価格・送料・予約の受付状況は変わります。また、当サイトの編集部はこの酒を飲んでいません。味については述べません。購入前に必ず商品ページでご確認ください。

いちばん多かったのは「原酒」で52件(14.8%)。告示に定義がある言葉です。「無濾過」は21件(6.0%)で、こちらは告示にありません。

「生酒」は1件だけでした。しかも中身を見ると、これは飲み比べセットです(「季節のお酒と 選べる日本酒 720ml×3本セット」)。ひやおろし単体で「生酒」と書かれた商品は、351件のなかにありませんでした。生酒は火入れを一度もしない清酒で、生詰めとは別のものです。

日本酒全体と比べると、向きが逆になる語があります。「しぼりたて」は日本酒全体で17件あるのに、ひやおろしでは0件。「生酒」も12件対1件です。季節の言葉が入れ替わっていることが数字に出ています。

「冷蔵」「クール便」は5件に1件

あわせて、保存や配送に関わる語も数えました。

ひやおろし351件のうち、商品名に「要冷蔵」「冷蔵」「クール」のいずれかが入っているのは69件(19.7%)でした。日本酒全体では18件(6.6%)です。

ただしこれは商品名に書かれているかどうかだけを見たものです。商品名に書いていなくてもクール便で送る店はあります。実際の配送方法は、購入前に各商品ページでご確認ください。

保存の考え方そのものについては、日本酒の温度と保存の記事で、酒類総合研究所と東京国税局の資料をもとに整理しています。

買うときにどう見ればよいか

今回の確認から言えることを、そのまま並べます。味の良し悪しについては述べません。

  • 「生詰」と書かれていなくても、生詰めの造りであることはあります。告示に定めがない言葉なので、書く義務も、書かない理由の説明もありません。商品名だけでは判断できません
  • 「生酒」と書かれていたら、火入れを一度もしていない清酒です。これは告示に定義があります。生詰めとは別のものなので、保存の扱いも変わります
  • 「原酒」も告示に定義があります。加水調整をしていないという意味で、度数が高めになります
  • 「無濾過」に告示の定めはありません。条件が定められていない言葉です
  • ひやおろし自体、国の定義がありません。詳しくは「ひやおろし」と「秋あがり」の違いをご覧ください

同じ351件を特定名称で数えた記事もあります。純米系が約8割を占めていました。

ひやおろしの8割は純米系だった|特定名称を351件で数えた

ビールの「生」には条件が定められています。熱による処理をしないこと、という業界の規約です。日本酒の「生詰」に定めがないのとは対照的でした。

ビールの「生」「ラガー」は誰が決めているか|業界の規約が条件を定めている4語

よくある質問

「生詰め」と書いてある酒は、生酒ですか?
いいえ。生酒は火入れを一度も行わない清酒で、告示に定義があります。生詰酒は東京国税局の用語集で「貯蔵前のみ火入れをし、びん詰めの際に火入れをしない」ものと説明されています。火入れの回数が違います。
告示に「生詰」がないのは問題ですか?
当サイトから良し悪しは述べません。告示が書いてはいけないと定めているのは、最上級を意味する用語・官公庁御用達に類する用語・特定名称に類似する用語の3つだけです(第6項)。「生詰」はそのいずれにも当たりません。定めがないので条件も付いていない、というのが今回確認できたことです。
ひやおろしは冷蔵保存が必要ですか?
商品によります。今回数えた351件のうち、商品名に「要冷蔵」「冷蔵」「クール」のいずれかが入っていたのは19.7%でした。商品名に書かれていない商品の保存条件は、商品名からは分かりません。各商品ページの記載をご確認ください。保存の一般的な考え方は温度と保存の記事にまとめています。
「無濾過生詰」はどういう意味ですか?
どちらの語も告示に定義がありません。そのため、この記事では意味を断定しません。今回の351件では「無濾過」が21件、「生詰」が14件でした。
ラベルを見れば火入れの回数が分かりますか?
火入れの回数を書く義務はありません。告示が必ず書けと定めているのは原材料名・製造時期など5項目です(→ラベルの記載事項)。ただし一切加熱処理をしない清酒には、保存または飲用上の注意事項の表示が義務づけられています(第3項(3))。
この数字はいつのものですか?
2026年8月29日時点のものです。ひやおろしは9月から11月にかけて出荷が本格化するため、件数も割合も変わります。時期を区切った記録としてお読みください。

出典

本記事は編集部が上記の情報源を確認して作成しました。告示および用語集の引用は原文のままで、改行位置のみ編集部が調整しています。任意記載事項の一覧表は、原文の条件を編集部が短くまとめたもので、原文どおりではありません。火入れの回数と呼び名の対応表は、告示と用語集の記述にもとづき編集部が整理したもので、告示にその形の表が載っているわけではありません。出現回数は編集部が本文を検索して数えたものです。「生詰」などの語について記載がなかったという事実を書いており、酒類の表示に関するあらゆる規定を網羅的に調べたものではありません。商品名の集計は、楽天市場商品検索APIで2026年8月29日に取得したデータによります(母集団B=検索語「ひやおろし」のみで373件を取得し、日本酒ジャンル外5件・商品名に「ひやおろし」がない12件・ふるさと納税5件を除いた351件/該当件数993件。母集団A=検索語を使わず日本酒ジャンルの指定だけで420件を取得し、ふるさと納税149件を除いた271件/該当件数115,803件)。いずれも楽天市場の一部であり、市場全体を代表するものではありません。件数・割合はすべて編集部が数え、計算したものです。数えたのは商品名に含まれる文字列であり、商品名に書かれていないことが、その商品にその性質がないことを意味するわけではありません。瓶のラベルの実物や中身は確認していません。保存方法・配送方法は商品ごとに異なるため、購入前に必ず販売店の商品ページでご確認ください。