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ビールの「生」「ラガー」は誰が決めているか|業界の規約が条件を定めている4語

缶に書かれた「生」「ラガー」「黒」「スタウト」。この4つには、名乗るための条件が文書で決まっています。

決めているのは法律ではなく、業界の「ビールの表示に関する公正競争規約」です。そこには「吟醸」の条件まで書かれていました。麦芽のエキス含量80.5%以上、アロマホップ80%以上――日本酒の吟醸酒よりも数値が具体的です。

いっぽう「IPA」「ペールエール」「ピルスナー」には、この規約に条件がありません。規約の全文と、楽天市場のビール335件の商品名を突き合わせました。

この記事の結論

  • 条件が定められているのは「ラガービール」「生ビール/ドラフトビール」「黒ビール/ブラックビール」「スタウト」の4項目です(規約 第4条)
  • 「生ビール」=熱による処理(パストリゼーション)をしないビール。これ以外に生と名乗ることはできません
  • 「生」と表示するときは「熱処理していない」旨の併記が義務です(規約 第4条第3項)
  • ビールの「吟醸」にも条件があります。麦芽はエキス含量80.5%以上、ホップはアロマホップ80%以上、さらに仕込工程の条件
  • 「本醸造」「本造り」「本仕込」はビールでは使用できません。日本酒では本醸造酒が特定名称なのと逆です
  • 楽天のビール335件で、いちばん多く書かれていたのは「クラフト」(58件・17.3%)。規約に一度も出てこない語が、「生ビール」(47件・14.0%)より多く使われていました
  • 「IPA」17件、「エール」36件、「ピルスナー」5件。いずれも規約に条件はありません
  • この規約は国内で容器に詰められたビールが対象です。輸入ビールは別の規約になります

条件が決まっている4つの用語

「ビールの表示に関する公正競争規約」の第4条に、「特定用語の表示基準」という見出しで4項目が並んでいます。原文です。

(1) ラガービール
貯蔵工程で熟成させたビールでなければラガービールと表示してはならない。
(2) 生ビール及びドラフトビール
熱による処理(パストリゼーション)をしないビールでなければ、生ビール又はドラフトビールと表示してはならない。
(3) 黒ビール及びブラックビール
濃色の麦芽を原料の一部に用いた色の濃いビールでなければ、黒ビール又はブラックビールと表示してはならない。
(4) スタウト
濃色の麦芽を原料の一部に用い、色が濃く、香味の特に強いビールでなければ、スタウトと表示してはならない。 ビールの表示に関する公正競争規約 第4条(特定用語の表示基準)(2026年8月29日確認・原文ママ)

書き方に特徴があります。「表示できる」ではなく「表示してはならない」です。条件を満たさないものが名乗ることを禁じる形で書かれています。

省略についても定めがあります。

前項第1号から第3号までの文言は、ビールである旨が明瞭である場合には、当該文言中のビールの文字を省略し、単に「ラガー」、「生」などと表示することができる。 同 第4条第2項(2026年8月29日確認・原文ママ)

缶に大きく「生」とだけ書かれているのは、この規定によるものです。「生ビール」の省略形であり、条件は同じです。

さらに、併記の義務があります。

第1項第2号の文言を容器又は包装に表示する場合は、「熱処理していない」旨を併記して表示しなければならない。 同 第4条第3項(2026年8月29日確認・原文ママ)

ただし施行規則で、運搬用容器入りのものについては省略できると定められています(施行規則 第3条)。

★ビールの「吟醸」には、日本酒より具体的な数値がある

規約 第4条第4項は、「特製」「吟醸」等 製造方法に関する文言は、施行規則で定めるところにより表示することができるとしています。その施行規則を読むと、「吟醸」に3つの条件が並んでいました。

「吟醸」の文言は、ビール固有の良質で調和のとれた香味を有するビールを製造するために、製造方法において次の全ての項目を充たす場合に限り表示することができる。
イ 麦芽はエキス含量80.5パーセント以上のものを使用する。
ロ ホップはアロマホップを80パーセント以上使用する。
ハ 麦汁中の麦芽穀皮成分の溶出量を調整するため、仕込工程において次のいずれかの方法を用いた場合
ⅰ) 使用した麦芽の穀皮の全量に対し麦芽穀皮三分の一以上を分離又は除去等の処理をして糖化を行う場合
ⅱ) 一番麦汁のみを使用した場合
ⅲ) その他仕込工程において広く業界で行われている工程と比較して著しい差異があり、客観的事実に基づく説明ができ、かつその仕込工程の内容を併記する場合 ビールの表示に関する公正競争規約 施行規則 第3条第2項第2号(2026年8月29日確認・原文ママ)

「特製」にも条件があります。使用原材料・製造工程・製造設備のいずれかで、広く業界で使用されているものと比べて著しい差異があり、客観的に特別な製品であることが説明できる場合に限られ、しかも「特製」である事由を併記しなければなりません(施行規則 第3条第2項第1号)。

そして、使えない語もあります。

前三号以外で規約第4条第4項の「等」に該当する用語については、第1号の「特製」の規定を準用する。ただし、「本醸造」、「本造り」、「本仕込」は使用できない。 同 施行規則 第3条第2項第4号(2026年8月29日確認・原文ママ)

「本醸造」がビールでは使えません。日本酒では本醸造酒が国税庁の告示に定められた特定名称です(→特定名称の記事)。同じ3文字が、酒類によって扱いが正反対になっています。

成分に関する語にも数値があります。

  • 「高濃度」=原麦汁エキスが13パーセント以上
  • 「高アルコール」=アルコール含量が容量で6パーセント以上

また、業界における「最高」「最高級」「最良(ベスト)」等 最上級を意味する文言は不当表示にあたると定められています(施行規則 第4条)。「新鮮」「フレッシュ」等の文言も、具体的な事実の裏付けなしには表示できません。

※規約および施行規則は変更されることがあります。上記は2026年8月29日に確認した内容です。今回確認したのはこの規約と施行規則の本文であり、酒類の表示に関するすべての規定を網羅的に調べたものではありません。この規約が対象とするのは、酒税法第3条第12号のビールのうち国内消費用として国内で容器に詰められたものです(規約 第2条)。輸入ビールについては別の規約が定められています。

規約に出てこない言葉のほうが多い

規約の全文(全12ページ)を検索しました。ビアスタイルの名前として広く使われている語の多くは、この規約に出てきません。

規約・施行規則の本文
ラガー条件あり(第4条第1項第1号)
生ビール / ドラフトビール条件あり(同第2号)
黒ビール / ブラックビール条件あり(同第3号)
スタウト条件あり(同第4号)
吟醸 / 特製条件あり(施行規則 第3条第2項)
IPA0
ペールエール0
ピルスナー0
ヴァイツェン0
クラフト / 地ビール0
エール出てくるが、条件の定めではない。ビールでない飲料に「○○エール」と表示することを不当表示として挙げている箇所(施行規則 第4条第1号)
ビールの表示に関する公正競争規約および施行規則(全12ページ)の本文を編集部が検索して数えた(2026年8月29日確認)※スマートフォンでは横にスクロールできます

「エール」の扱いが独特です。ビールでない飲料に「○○ビール」「○○ビヤー」「○○エール」「○○スタウト」等の名称を表示することは不当表示にあたる、という形で出てきます。ただし「ルートビヤー」「ジンジャーエール」など公知の名称は、その部分を分離・強調しない限り含まれないとも書かれています。

「クラフトビール」「地ビール」に定義がないことは、当サイトでもビールと発泡酒の分かれ目の記事で確認しています。今回はその規約の別の条文を読み、名乗る条件が定められている語のほうが少ないことを確かめました。

★売り場でいちばん多い語は「クラフト」だった

では、実際の商品名では何が使われているのか。楽天市場のビールジャンルから335件を取得して数えました。

項目内容
取得日2026年8月29日(JST)
取得先楽天市場(楽天商品検索API)
母集団検索語を使わず、楽天市場のビールジャンルの指定だけで取得。並び順2種類(最近更新順・標準の並び順)で419件を取り、ふるさと納税の返礼品84件を除いて335件。該当件数は31,390件
数えたもの商品名に含まれる文字列(英字は大文字・小文字を区別しない)
編集部が実施した取得の条件(2026年8月29日)※スマートフォンでは横にスクロールできます
商品名に含まれる語件数(335件中)規約の条件
クラフト / CRAFT58件(17.3%)なし
生ビール47件(14.0%)あり
エール36件(10.7%)なし
地ビール28件(8.4%)なし
ラガー22件(6.6%)あり
IPA17件(5.1%)なし
ヴァイツェン / ヴァイス / 白ビール9件(2.7%)なし
ペールエール6件(1.8%)なし
ドラフト5件(1.5%)あり
黒ビール5件(1.5%)あり
ブラック5件(1.5%)あり
スタウト5件(1.5%)あり
ピルスナー5件(1.5%)なし
吟醸0あり
本醸造0使用できない
特製0あり
最高 / 最高級0不当表示
新鮮 / フレッシュ0裏付けが必要
商品名に含まれる語の件数と割合(編集部が数え、計算したもの・2026年8月29日取得)。1つの商品名に複数の語が入る場合がある ※スマートフォンでは横にスクロールできます

読みどころは3つです。

  • いちばん多いのは「クラフト」で58件(17.3%)。規約に一度も出てこない語が、条件の定められた「生ビール」(47件・14.0%)より多く使われています
  • 規約が条件を定めている4語の合計より、定めていない語のほうが目立ちます。「クラフト」「エール」「地ビール」「IPA」だけで139件です(重複を含む延べ件数)
  • 「最高」「最高級」は0件でした。不当表示として名指しされている語です。「新鮮」「フレッシュ」も0件です

「熱処理」は0件でした。これは規約の併記義務が守られていないという意味ではありません。併記の義務は容器または包装(缶や瓶のラベル)に対するもので、通販の商品名は対象ではないからです。今回見ているのは商品名だけです。

なお、「生」の字を含む商品名は89件ありましたが、うち39件は「誕生日」でした。ギフト向けの語です。「生ビール」として使われているのは47件で、残りは「生樽」「〈生〉」「のどごし生」といった書き方でした。文字列を数えるときは、語の中身を見ないと数を取り違えます。

買うときにどう見ればよいか

今回の確認から言えることを、そのまま並べます。味の良し悪しについては述べません。

  • 缶の「生」は「熱処理していない」という意味です。規約で条件が決まっており、ラベルには「熱処理していない」旨が併記されているはずです
  • 「ラガー」は貯蔵工程で熟成させたビールという意味です。生かどうかとは別の軸なので、「生ラガー」もあり得ます
  • 「IPA」「ペールエール」「ピルスナー」は、この規約では条件が定められていません。造り方を保証する表示ではないということです
  • 「クラフト」「地ビール」も同じです。規模や造り方を保証する表示ではありません(→「地ビール」が生まれた理由
  • 輸入ビールはこの規約の対象外です。別の規約が定められています
  • 2026年10月1日にビール系の酒税が一本化されます(→酒税一本化の記事)。表示の規約とは別の制度ですが、売り場の値段は動きます

日本酒の「生」はどうか。こちらは「生酒」「生貯蔵酒」に告示の定義があり、「生詰」にはありません。ビールとは逆に、条件が定められていない語が売り場で使われています。

ひやおろしの「生詰め」とは|国の表示基準に「生詰」という言葉はない

ひやおろしの8割は純米系だった|特定名称を351件で数えた

よくある質問

「生ビール」とは何ですか?
ビールの表示に関する公正競争規約 第4条で、「熱による処理(パストリゼーション)をしないビール」と定められています。条件を満たさないビールが「生ビール」「ドラフトビール」と表示することは禁じられています。缶の「生」はその省略形です(同第2項)。
これは法律ですか?
法律ではなく、業界の公正競争規約です。ただし公正取引委員会および消費者庁長官の認定を受けて運用されるもので、違反には警告や違約金の定めがあります(規約 第8条・第9条)。「ジャパニーズウイスキー」の自主基準とは仕組みが違います(→自主基準の記事)。
「IPA」と書いてあれば、IPAの造り方だと分かりますか?
この規約からは分かりません。「IPA」は規約と施行規則の本文に一度も出てきませんでした。今回確認した範囲では、名乗る条件は定められていません。
ビールに「吟醸」と書けるのですか?
条件を満たせば書けます。麦芽はエキス含量80.5%以上、ホップはアロマホップ80%以上、さらに仕込工程の条件を全て満たす場合に限られます(施行規則 第3条第2項第2号)。今回数えた335件では0件でした。なお「本醸造」「本造り」「本仕込」は使用できません。
輸入ビールにも同じ決まりがありますか?
この規約の対象は、国内消費用として国内で容器に詰められたビールです(規約 第2条)。輸入ビールについては別の規約が定められており、規約の中にも実施機関との連絡に関する条文があります。
この数字はいつのものですか?
商品名の集計は2026年8月29日時点のものです。規約・施行規則の確認日も同じです。いずれも変わることがあります。

出典

本記事は編集部が上記の情報源を確認して作成しました。規約および施行規則の引用は原文のままで、改行位置のみ編集部が調整しています。出現回数は編集部が本文を検索して数えたものです。「IPA」などの語について記載がなかったという事実を書いており、酒類の表示に関するあらゆる規定を網羅的に調べたものではありません。商品名の集計は、楽天市場商品検索APIで2026年8月29日に取得したデータによります(検索語を使わず楽天市場のビールジャンルの指定だけで並び順2種類・419件を取得し、ふるさと納税の返礼品84件を除いた335件/該当件数31,390件)。楽天市場の一部であり、市場全体を代表するものではありません。件数・割合はすべて編集部が数え、計算したものです。数えたのは商品名に含まれる文字列であり、英字は大文字・小文字を区別していません。1つの商品名に複数の語が入る場合があるため、合計は100%を超えます。商品名に書かれていないことが、その商品にその性質がないことを意味するわけではありません。とくに規約が定める併記の義務は容器または包装に対するものであり、通販の商品名を対象とするものではありません。缶や瓶のラベルの実物は確認していません。この規約が対象とするのは国内消費用として国内で容器に詰められたビールで、輸入ビールは別の規約によります。価格・在庫は日々変動するため、購入前に必ず販売店の商品ページでご確認ください。