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日本酒の造り方はどこまで決められているか|製造工程図と、GIが縛る甑・麹・酒母の条件

日本酒の造りは、蔵ごとに自由なようでいて、いくつかの点は文書で決められています。

この記事では、国税庁の「酒類の製造工程図」で全体の流れを確認したうえで、酒税法基本通達地理的表示(GI)の生産基準の原文から、造りのどこに条件が付いているかを整理します。

この記事の結論

  • 清酒とそれ以外を分けるのは「こす」かどうか。通達は「その方法のいかんを問わず」と定めています
  • 「酒母」には国税庁の定義があります(GI白山の生産基準の注記)
  • こうじ米の使用割合は特定名称酒で15%以上。GIで20%以上にしている産地があります
  • 甑を使うこと、麹を40kg以下のロットで造ることまで条件にしている産地があります(鳥取)
  • 「液化仕込みを行わないこと」を条件にしている産地があります(白山)
  • 清酒のGI23産地のうち8産地が「特定名称酒であること」を製法の条件にしています

まず全体の流れ(国税庁の製造工程図)

国税庁の「酒のしおり」に、清酒の製造工程図が載っています。図に書かれている語をそのまま並べます。

もの 工程(かっこ内は図の表記)
1玄米(精米)
2白米(洗米・浸漬・蒸きょう)
3蒸米(製麹)→ こうじ
4酒母こうじ・酵母・水から
5もろみ(発酵)※醸造アルコール、ぶどう糖・水あめなどを加える場合がある
6清酒(上槽)※同時に清酒かすが出る
7貯蔵(火入)(ろ過)(割水)
8製品(びん詰)(火入びん詰)
国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」4 酒類の製造工程図(1)清酒 の記載順に編集部が並べた(2026年8月12日確認)。原典は図であり、この表の形で載っているわけではない ※スマートフォンでは横にスクロールできます

この図の下部で、火入れとびん詰めの順番によって4つの製品に枝分かれします。図にはこう書かれています。

市販の生酒 / 市販の生貯蔵酒 / 市販の一般の清酒 / 市販の各種原酒

国税庁「酒類の製造工程図(1)清酒」(2026年8月12日確認)

同じもろみから始まっても、火入れをどこでするかで名前が変わるということです。火入れの回数と「ひやおろし」との関係は別記事で扱っています。

「ひやおろし」と「秋あがり」の違い|国の表示基準には両方とも定義がない

★清酒とそれ以外を分けるのは「こす」かどうか

工程図の6番目「上槽」は、法律上いちばん重い意味を持つ工程です。酒税法の清酒の定義には「発酵させてこしたもの」とあり、この「こす」について酒税法基本通達に定義があります。

11 「こす」の意義
酒類の製造方法の一つである「こす」とは、その方法のいかんを問わず酒類のもろみを液状部分とかす部分とに分離する全ての行為をいう。

酒税法基本通達 第3条《その他の用語の定義》関係(2026年8月12日確認)

読みどころは「その方法のいかんを問わず」です。槽で搾ろうと、袋で吊るそうと、遠心分離機を使おうと、もろみを液とかすに分ける行為であれば「こす」に当たります。道具は問われていません。

逆に言えば、こしていないものは清酒ではありません。にごり酒が清酒として売られているのは、粗くこしたうえで、こした後のかすを混ぜているためです(この点について通達に明記はなく、本記事では「こす」の定義のみを事実として扱います)。

「酒母」には国税庁の定義がある

工程図の4番目「酒母」は、酵母を増やす工程です。この語の定義が、GI白山の生産基準の注記に書かれています。

(注)2 「酒母」とは、清酒の製造の健全を期する目的で、米、米こうじ及び水を用いて酵母を増殖させたものをいう。

地理的表示「白山」生産基準(2)製法 注記(2026年8月12日確認)

「清酒の製造の健全を期する目的で」という書き出しです。味を良くするためではなく、造りを失敗させないための工程だと位置づけられています。

酒母には種類があります。独立行政法人 酒類総合研究所のQ&Aに、その分かれ方が説明されています。

酒母は、醪を安全に発酵させるために必要な優良酵母を培養しますが、野生酵母や細菌の混入を防ぐために、強い酸性(乳酸)下で造られます。
酒母は、乳酸の獲得方法により、生酛(山廃)系酒母と速醸系酒母に分けられます。
生酛系の酒母では、乳酸菌に乳酸を造らせるのに対し、速醸系では、醸造用規格の乳酸を使用しています。生酛系酒母では、乳酸菌が増殖するまで時間がかかりますので、製造期間は2倍かかります。
また、生酛系の酒母である山廃酛は、生酛の製造工程である『山卸』の操作を省略(廃止)しているので、『山(卸)廃(止)』と呼ばれています。

酒類総合研究所「お酒のQ&A(清酒)」生酛(山廃)系酒母とは、何ですか?(2026年8月12日確認)

生酛と速醸を分けているのは「乳酸をどう手に入れるか」だけです。乳酸菌に造らせるか、規格品の乳酸を使うか。そして「山廃」は「山卸廃止」の略だと、この一段落で分かります。

ただしこれらは、表示の条件が定められた用語ではありません。文書を検索した結果です。

清酒の製法品質表示基準 清酒のGI23産地の生産基準
生酛0回0産地
速醸0回0産地
山卸0回0産地
山廃0回1産地(白山)※
両文書の本文を編集部が検索して数えた(2026年8月12日確認)。※白山の1回は「技術研さん・山廃仕込み等による商品開発に努めており」という背景の説明の中の記述で、製法の条件ではない ※スマートフォンでは横にスクロールできます

「生酛」「山廃」と書かれていても、その表示に国が定めた条件があるわけではありません。条件が定められている用語(生酒・原酒・樽酒など)はラベルの記事で扱っています。

白山の注記には、もうひとつの製法用語の定義もあります。

(注)1 「液化仕込み」とは、掛米を蒸きょうしないで、酵素を用いて液化したものを用いる仕込方法をいう。

同(2026年8月12日確認)

白山では、この液化仕込みを行わないことが条件になっています。「やってはいけない造り」を名指しで書いているのは、23産地のなかでも珍しい書き方です。

こうじ米の使用割合は15%以上(特定名称酒の場合)

清酒の製法品質表示基準に、こうじ米についての要件があります。

米こうじとは、白米にこうじ菌を繁殖させたもので、白米のでんぷんを糖化させることができるものをいい、特定名称の清酒は、こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合をいう。以下同じ。)が、15%以上のものに限るものとする。

清酒の製法品質表示基準 第1項の表の適用に関する通則(3)(2026年8月12日確認)

純米酒や吟醸酒を名乗るなら、使った白米の15%以上はこうじ米でなければならないということです。特定名称そのものの要件は別記事で扱っています。

日本酒の「純米」「吟醸」「大吟醸」の違い|国税庁告示の要件をそのまま読む

そしてこの15%を、GIでさらに引き上げている産地があります。

ハ こうじ米の使用割合は、20%以上であること。

地理的表示「白山」生産基準(2)製法(2026年8月12日確認)

ホ こうじ米の使用割合(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合)が20%以上であること。

地理的表示「鳥取」生産基準 2(2)製法(2026年8月12日確認)

★GIは道具と作業のロットまで決めている

もっとも踏み込んでいるのが、鳥取と信濃大町です。使う道具と、一度に扱う量まで条件になっています。

ハ 酒米の蒸しには、甑を使用すること。
ニ 米こうじは、「盛り」以降の工程は一つの容器に対して40kg以下のロットで造ること。

地理的表示「鳥取」生産基準 2(2)製法(2026年8月12日確認)

ハ 米及び米こうじに用いる米は全てこしきで蒸したものを使用すること。
ニ 米こうじは、産地の範囲内に設置されたこうじ室(注4)で製麹(注5)されたものを用いること。
(注4)壁、床及び屋根により他の居室と隔離されており、製麹作業のみに用いる居室をいう。
(注5)「盛り」以降の工程を1つあたりの重量が100kg以下の麹床、麹箱又は麹蓋を用いて行う製麹に限る。

地理的表示「信濃大町」生産基準 2(2)製法(2026年8月12日確認)

「こうじ室」の定義まで書かれています。壁・床・屋根で他の部屋と隔てられていて、製麹だけに使う部屋であること——設備の条件が文書になっています。

造りについて条件を置いている産地を並べました。

産地 製法についての条件(原文の要点)
鳥取 純米酒であること/酒米の蒸しにはを使用/米こうじは「盛り」以降40kg以下のロット/こうじ米の使用割合20%以上
信濃大町 米は全てこしきで蒸す/産地内のこうじ室で製麹/「盛り」以降は100kg以下の麹床・麹箱・麹蓋
白山 液化仕込みを行わない酒母を用いた製造/こうじ米の使用割合20%以上
静岡 発酵に用いる酵母は静岡酵母(管理機関が指定した酵母は併用する場合のみ使用可)
利根沼田 酵母は群馬KAZE酵母・群馬G2酵母・産地内で採取培養した蔵付き酵母のみ/水の代わりに清酒を用いる場合は、同じ条件で造られた清酒に限る
滋賀 白米、米こうじ及び水のみを原料として製造したものに限る
伊丹 ろ過剤に活性炭を使用したものであること
岩手 「オールいわて清酒」を表示する場合は、麹菌及び酵母が岩手県内で育種された菌株であること
各産地の生産基準の「製法」および「原料」の項から編集部が要点を抜き出した(2026年8月12日確認)。原文は各出典を参照。この8産地以外にも製造・貯蔵・容器詰めを産地内で行う条件はある ※スマートフォンでは横にスクロールできます

利根沼田の「水の代わりに清酒を用いる場合」という条項は、仕込み水の一部を清酒に置き換える造り(貴醸酒)を想定したものです。東京国税局は貴醸酒についてこう説明しています。

貴醸酒は、お酒を仕込み水の一部に代用して、製造するお酒です。この製法は現在の「独立法人 酒類総合研究所」の前身である「国税庁醸造試験所」が開発したもので、一般酒に比べて味が濃く甘口であることから、食前酒として好まれています。

東京国税局「日本酒(清酒)に関するもの」【貴醸酒】(2026年8月12日確認)

この醸造試験所は1904年に「腐造」を防ぐために作られた機関です。経緯は別記事で扱っています。

日本酒の歴史を公的資料で追う|杜氏制度の成り立ちから、級別制度が消えた平成元年まで

「特定名称酒であること」を条件にしている産地が8つ

製法の項に「清酒の製法品質表示基準第1項の表の右欄に掲げる製法品質の要件に該当するものであること」と書いている産地を数えました。

扱い 産地
特定名称酒であることが条件8産地(三重・滋賀・静岡・南会津・伊丹・喜多方・青森・鳥取)※鳥取はさらに「純米酒」に限定
条件つき1産地(岩手。「オールいわて清酒」を表示する場合に限る)
条件にしていない14産地
清酒のGI23産地の生産基準の「製法」の項を編集部が確認して数えた(2026年8月12日確認)。佐賀は同じ語を「特定名称酒」の定義注記として使っているが、製法の条件ではないため含めていない ※スマートフォンでは横にスクロールできます

つまり、GIを名乗る酒が必ず純米酒や吟醸酒だとは限りません。産地によって、そこまで縛るかどうかが分かれています。

変わった位置にいるのが佐賀です。特定名称酒であることは求めない代わりに、特定名称酒の要件に該当しない酒については「甘辛度」という計算式の値が0を超えることを条件にしています。造りではなく、できあがった酒の数値で縛る書き方です。

日本酒度・酸度・アミノ酸度とは|国税庁の分析法に「甘口」「辛口」は一度も出てこない

買うときにどう見ればよいか

造りはラベルからどこまで分かるか

  • 「生酒」「生貯蔵酒」「原酒」は、火入れと加水の有無を示す表示です。製造工程図の枝分かれに対応しています
  • 甑を使ったか、麹をどう造ったかは、ラベルの必須記載事項ではありません。GIの表示がある場合は、その産地の条件を満たしていることになります
  • 「手造り」「伝統製法」といった語に、国が定めた要件はありません。今回確認した文書には、これらの語の定義は見当たりませんでした
  • 造りの条件は味の優劣を示すものではありません。生産基準にも、どの造りが優れているという書き方は見当たりませんでした

※2026年8月12日時点で確認した内容です。生産基準は変更されることがあります。最新の内容は国税庁のページでご確認ください。当サイトから造りの良し悪しについて述べることはしません。

よくある質問

「こす」とは具体的に何をすることですか?
酒税法基本通達に「その方法のいかんを問わず酒類のもろみを液状部分とかす部分とに分離する全ての行為をいう」と定められています。道具や方法は問われていません。
「酒母」に公的な定義はありますか?
地理的表示「白山」の生産基準の注記に「清酒の製造の健全を期する目的で、米、米こうじ及び水を用いて酵母を増殖させたものをいう」と書かれています。
こうじ米の割合に決まりはありますか?
特定名称を表示する清酒は15%以上と、清酒の製法品質表示基準の通則に定められています。地理的表示「白山」「鳥取」ではさらに20%以上が条件です。
GIの日本酒は必ず純米酒ですか?
いいえ。特定名称酒であることを製法の条件にしているのは23産地のうち8産地で、そのうち純米酒に限定しているのは鳥取です。ほかの産地は条件にしていません。
「手造り」と書いてあれば手作業ですか?
今回確認した文書(酒税法基本通達、清酒の製法品質表示基準、清酒のGI23産地の生産基準)には「手造り」の定義が見当たりませんでした。記載がなかったという事実であり、あらゆる文書を網羅的に調べたものではありません。

出典

本記事は編集部が上記の情報源を確認して作成しました。引用は通達・告示・生産基準の原文のままです。製造工程図を表にしたもの、産地ごとの条件をまとめた表は、原典の記述にもとづき編集部が整理したものです(原典は図であり、この表の形で載っているわけではありません)。産地数は編集部が23産地の生産基準の「製法」の項を確認して数えたものです。「手造り」については、今回確認した文書に記載がなかったという事実を書いており、あらゆる文書を網羅的に調べたものではありません。造りの違いは味の優劣を示すものではないため、当サイトからは述べていません。