日本酒の「GI(地理的表示)」とは|産地名を名乗れる23産地と、国が定めた条件
ラベルに書かれた産地名のうち、一部は国が条件を決めていて、その条件を満たさない酒には使えません。これが「地理的表示(GI)」です。
この記事では、「酒類の地理的表示に関する表示基準」(平成27年10月国税庁告示第19号)と、指定された各産地の生産基準の原文を確認し、清酒で指定されている産地の一覧と、名乗るために何が必要かを整理します。
この記事の結論
- 国税庁長官が指定した酒類の地理的表示は31の名称。うち清酒は23(2026年8月12日時点の一覧で確認)
- 指定を受けると、その産地名は生産基準を満たさない酒には使えなくなる
- ★翻訳しても、「種類」「型」「様式」「模造品」等の表現を伴っても使えません(告示第9項)
- 条件は「産地内で造ること」だけではなく、貯蔵も容器詰めも産地内で行う産地が大半
- 出荷前に管理機関の確認を受ける必要がある
- ★「灘五郷」はありますが、「灘」「伏見」という名称のGIは一覧にありません
そもそも「地理的表示」とは何か
告示に定義があります。原文のまま引用します。
「地理的表示」とは、酒類に関し、その確立した品質、社会的評価又はその他の特性(以下「酒類の特性」という。)が当該酒類の地理的な産地に主として帰せられる場合において、当該酒類が世界貿易機関の加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を産地とするものであることを特定する表示であって、次に掲げるものをいう。
酒類の地理的表示に関する表示基準 第1項第3号(2026年8月12日確認)
イ 国税庁長官が指定するもの
ロ 日本国以外の世界貿易機関の加盟国において保護されるもの
「その産地だから、この品質になっている」という結びつきがあることが前提です。単に産地の名前を付けたラベル、という意味ではありません。
指定するときに何を決めるのかも、告示に書かれています。
国税庁長官は、酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であり、かつ、その酒類の特性を維持するための管理が行われていると認められるときには、次の各号に掲げる事項(以下「生産基準」という。)、名称、産地の範囲及び酒類区分を(中略)地理的表示として指定することができる。
同 第2項(2026年8月12日確認)
(1)酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項
(2)酒類の原料及び製法に関する事項
(3)酒類の特性を維持するための管理に関する事項
(4)酒類の品目に関する事項
清酒で指定されている23の産地
国税庁の「酒類の地理的表示一覧」に掲載されている清酒の指定を、指定日の順に並べました。
| 名称 | 産地の範囲 | 指定した日 |
|---|---|---|
| 白山 | 石川県白山市 | 平成17年12月22日 |
| 日本酒 | 日本国 | 平成27年12月25日 |
| 山形 | 山形県 | 平成28年12月16日 |
| 灘五郷 | 兵庫県神戸市灘区、東灘区、芦屋市、西宮市 | 平成30年6月28日 |
| はりま | 兵庫県姫路市、相生市、加古川市ほか(22市町) | 令和2年3月16日 |
| 三重 | 三重県 | 令和2年6月19日 |
| 利根沼田 | 群馬県沼田市、利根郡片品村、川場村、昭和村、みなかみ町 | 令和3年1月22日 |
| 萩 | 山口県萩市及び阿武郡阿武町 | 令和3年3月30日 |
| 山梨 | 山梨県 | 令和3年4月28日 |
| 佐賀 | 佐賀県 | 令和3年6月14日 |
| 長野 | 長野県 | 令和3年6月30日 |
| 新潟 | 新潟県 | 令和4年2月7日 |
| 滋賀 | 滋賀県 | 令和4年4月13日 |
| 信濃大町 | 長野県大町市 | 令和5年6月30日 |
| 岩手 | 岩手県 | 令和5年9月25日 |
| 静岡 | 静岡県 | 令和5年11月30日 |
| 南会津 | 福島県南会津郡南会津町 | 令和6年8月30日 |
| 伊丹 | 兵庫県伊丹市 | 令和6年11月29日 |
| 喜多方 | 福島県喜多方市及び耶麻郡西会津町 | 令和6年12月20日 |
| 青森 | 青森県 | 令和7年6月20日 |
| 京都 | 京都府 | 令和7年10月1日 |
| 鳥取 | 鳥取県 | 令和7年10月1日 |
| 福岡 | 福岡県 | 令和7年10月1日 |
「日本酒」そのものが指定されているのが目を引きます。産地の範囲は「日本国」。原料の米は国内産に限られ、日本国内で造られたものだけが名乗れます。
清酒以外にも指定があります。当サイトで扱っている酒種に関わるものを挙げます。
| 名称 | 産地の範囲 | 酒類区分 | 指定した日 |
|---|---|---|---|
| 壱岐 | 長崎県壱岐市 | 蒸留酒 | 平成7年6月30日 |
| 球磨 | 熊本県球磨郡及び人吉市 | 蒸留酒 | 平成7年6月30日 |
| 琉球 | 沖縄県 | 蒸留酒 | 平成7年6月30日 |
| 薩摩 | 鹿児島県(奄美市及び大島郡を除く。) | 蒸留酒 | 平成17年12月22日 |
| 東京島酒 | 東京都大島町、利島村、新島村ほか(8町村) | 蒸留酒 | 令和6年3月13日 |
★「灘」も「伏見」も、一覧にはありません
日本酒の産地としてよく知られた地名が、そのままGIになっているとは限りません。一覧を確認した結果です。
| よく聞く産地名 | 同じ名称のGIがあるか |
|---|---|
| 灘 | ない。「灘五郷」という名称で指定されている(神戸市灘区・東灘区、芦屋市、西宮市) |
| 伏見 | ない。京都府全域が「京都」として指定されている |
| 播磨 | ない。ひらがなの「はりま」で指定されている |
| 会津 | ない。「南会津」(南会津町)と「喜多方」(喜多方市ほか)が別々に指定されている |
GIは産地からの申立てにもとづいて指定される仕組みです。有名だから自動的に指定される、というものではありません。
「自然的要因」と「人的要因」で説明することになっている
各産地の生産基準は、まず「その酒質が、なぜその土地に帰せられるのか」を説明することから始まります。書き方は産地ごとに違いますが、自然的要因(地形・気候・水)と人的要因(技術・歴史)に分けて書かれているのが共通しています。
気候について具体的に書かれている例を2つ引きます。
冬季には西からの季節風が明石海峡で収束して山添いに強く吹き抜け、山頂に当たって六甲おろしとなって吹き降りてくる。このような地形は寒造りに極めて適した気候をもたらしている。
地理的表示「灘五郷」生産基準 1(2)イ 自然的要因(2026年8月12日確認)
冬季の気候については、北部地域は、対馬海流の影響で冬の積雪が多いほか、南部地域の京都盆地では盆地特有の「底冷え」となるため、概して厳しい寒さとなる。
地理的表示「京都」生産基準 1(2)イ 自然的要因(2026年8月12日確認)
米について書かれている例もあります。
米が登熟する時期には六甲山系が南からの温かい空気を遮り、一日の気温差が大きくなる気候や、ミネラル分が多い粘土質の農地によって、山田錦に心白の形状、脂肪やたんぱく質の少なさなど、清酒原料としての良い影響を与えている。
地理的表示「はりま」生産基準 第1(2)イ 自然的要因(2026年8月12日確認)
寒暖差・積雪・地形といった、産地の話でよく語られる要素が、行政文書に書き込まれていることになります。
自然的要因のうち水と米は、生産基準の「原料」の項でも条件になっています。水は23産地のうち22が「産地内で採水した水のみ」と定めており、米は品種まで絞っている産地があります。それぞれ別記事にまとめました。
産地内で「造る」だけでは足りない
生産基準の「製法」の項には、製造以外の工程についても条件が並びます。灘五郷を例に引きます。
イ 酒税法第3条第7号に規定する清酒の製造方法により、灘五郷内において製造されたものであること。
地理的表示「灘五郷」生産基準 2(2)製法(2026年8月12日確認)
ロ 製造工程上、貯蔵する場合は灘五郷内で行うこと。
ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に灘五郷内で詰めること。
造る・貯蔵する・詰める、の3つが揃って産地内であることが求められています。清酒の23産地のうち、この3点セット(またはそれに準じる書き方)を置いている産地が大半でした。
さらに、出荷までに確認を受ける必要があります。
地理的表示「灘五郷」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(中略)から移出(中略)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。
地理的表示「灘五郷」生産基準 3(1)(2026年8月12日確認)
管理機関は産地ごとに決まっており、多くは地元の酒造組合です。蔵が自分で名乗って終わり、という仕組みではありません。
★翻訳しても、「〜風」「〜タイプ」でも使えません
指定された名称の保護は、告示の第9項に書かれています。
地理的表示の名称は、当該地理的表示の産地以外を産地とする酒類及び当該地理的表示に係る生産基準を満たさない酒類について使用してはならないものとする。当該酒類の真正の産地として使用する場合又は地理的表示の名称が翻訳された上で使用される場合若しくは「種類」、「型」、「様式」、「模造品」等の表現を伴い使用される場合においても同様とする。
酒類の地理的表示に関する表示基準 第9項(2026年8月12日確認)
読みどころは後半です。「本当にその土地で造っている」場合でも、生産基準を満たしていなければ使えません。そして翻訳形も、「〜タイプ」「〜スタイル」のような言い換えも同じ扱いです。
この考え方自体は新しいものではありません。伊丹の生産基準には、寛保3年(1743年)に産地の偽装を防ぐ焼き印の制度があり、伊丹の蔵であっても他所で造った酒を「伊丹酒」として売れば焼き印を没収されたという記述があります。国税庁の資料はこれを「現在の地理的表示としての性格を強く帯びたもの」と書いています。
→ 日本酒の歴史を公的資料で追う|杜氏制度の成り立ちから、級別制度が消えた平成元年まで
この「言い換えても駄目」という構造は、当サイトで扱った他の酒にも出てきました。ただし誰が決めているかが違います。
| 呼び名 | 誰が条件を定めているか |
|---|---|
| 灘五郷・京都・新潟 などの産地名 | 国(国税庁告示・地理的表示)→ 本記事 |
| 純米酒・吟醸酒 | 国(国税庁告示・清酒の製法品質表示基準)→ 解説 |
| ジャパニーズウイスキー | 業界団体(日本洋酒酒造組合の自主基準)→ 解説 |
| ひやおろし・秋あがり | どちらも定めていない(慣用語)→ 解説 |
| クラフトビール | どちらも定めていない(慣用語)→ 解説 |
なお、ラベルに書く「清酒の産地名」そのものには、地理的表示とは別に表示基準のルールがあります。詳しくは日本酒のラベルに必ず書いてあることで扱っています。
ラベルに「GI」の文字を併記する決まりがある
指定されたGIを使う場合、名称だけでは足りません。
(中略)地理的表示を使用する場合(中略)は、使用した地理的表示の名称のいずれか一箇所以上に「地理的表示」、「Geographical Indication」又は「GI」の文字を併せて使用するものとする。ただし、第2項の指定の日から2年を経過していない地理的表示その他国税庁長官がこの項を適用しないこととした地理的表示については、この限りでない。
酒類の地理的表示に関する表示基準 第11項(2026年8月12日確認)
逆に、GIを使っていない酒に「GI」の文字を使うことは禁じられています(第12項)。
ただし書きが2つある点に注意が必要です。
- 指定から2年を経過していない産地は、併記しなくてよい。本記事の確認日(2026年8月12日)を基準にすると、青森(令和7年6月20日指定)、京都・鳥取・福岡(いずれも令和7年10月1日指定)の4つがこれに当たります(指定日から編集部が計算しました)
- ★GI「日本酒」は、この第11項が適用されません。国税庁が公開している備考にそう書かれています
この地理的表示については、酒類の地理的表示に関する表示基準第11項の規定を適用しない。
地理的表示「日本酒」別紙2 備考(2026年8月12日確認)
つまり「GIと書いていない=GIではない」とは限りません。
なお、ここまでは制度の話です。実際に売られている商品が産地をどれだけ名乗っているかは別の問題で、通販の商品名には決まりがありません。秋の日本酒180件を数えたところ、商品名に都道府県が書かれていたのは4割でした(→ ひやおろしはどこの蔵から出るか)。
買うときにどう見ればよいか
ラベルの産地名の見方
- 「GI灘五郷」のように併記があれば、指定を受けた産地の基準を満たし、管理機関の確認を通った酒です
- 併記がなくても、GIでないとは限りません。指定から2年以内の産地と、GI「日本酒」は併記の対象外です
- ラベルの産地名がすべてGIというわけでもありません。上の一覧にない地名は、GIとは別の表示です
- GIは品質の一定水準を示すもので、味の優劣を示すものではありません。指定を受けていない産地の酒が劣る、という意味にはなりません
※2026年8月12日時点で確認した内容です。地理的表示は新たに指定されることがあり、指定の取消しや生産基準の変更もあり得ます。最新の内容は国税庁のページでご確認ください。当サイトから産地の良し悪しについて述べることはしません。
よくある質問
日本酒のGIはいくつありますか?
「灘」のお酒にGIはありますか?
産地の外で瓶詰めしてもGIを名乗れますか?
「新潟タイプ」のような書き方ならよいのですか?
「GI」と書かれていない日本酒はGIではないのですか?
出典
- 国税庁「酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件」(平成27年10月30日国税庁告示第19号)(地理的表示の定義、指定の要件、保護の範囲、GIの文字の併記。2026年8月12日確認)
- 国税庁「酒類の地理的表示一覧」(名称・産地の範囲・指定した日・酒類区分。2026年8月12日確認)
- 国税庁「地理的表示『灘五郷』生産基準」(自然的要因、製法、管理機関。2026年8月12日確認)
- 国税庁「地理的表示『京都』生産基準」(自然的要因。2026年8月12日確認)
- 国税庁「地理的表示『はりま』生産基準」(自然的要因。2026年8月12日確認)
- 国税庁「地理的表示『日本酒』別紙2 備考」(第11項を適用しない旨。2026年8月12日確認)
- 国税庁「酒類の地理的表示」(制度の概要。2026年8月12日確認)
本記事は編集部が上記の情報源を確認して作成しました。引用は告示および生産基準の原文のままです。一覧表は国税庁の掲載順を編集部が指定日順に並べ替えたもので、産地の範囲が長いものは一部を省略しています(省略した箇所は原典でご確認ください)。「灘」「伏見」等の名称については、上記の一覧に同名の指定が掲載されていなかったという事実を書いており、あらゆる文書を網羅的に調べたものではありません。指定から2年を経過しているかどうかは、掲載された指定日から編集部が計算したものです。地理的表示は品質の一定水準を示す制度であり、味の優劣を示すものではないため、当サイトからは述べていません。